株式等の譲渡損を株式等の譲渡益及び配当等から繰越控除する場合や、複数の証券会社の特定口座間で損益通算する場合は、サラリーマンも確定申告により所得税の還付を受けることができます。
この確定申告にあたっては、まず株式の配当等の課税方式として、「総合課税」と「申告分離課税」のいずれかを選択する必要があります。
このうち総合課税では、株式の配当等は、配当所得とその他の所得を合計して総所得金額を求め、源泉徴収されている所得税及び復興特別所得税を精算しますので、一般的に、サラリーマンの場合は総合課税を選択すると所得税率が高くなり不利になります。このため、通常は申告分離課税を選択します。
申告分離課税では、株式の配当等の税率は、株式等の譲渡益に係る税率と同じ所得税15%(ほかに住民税5%)となりますが、特定口座(源泉徴収あり)では、株式の配当等や譲渡益(譲渡損の場合は配当等と損益通算される)に対して、あらかじめ所得税と住民税が源泉徴収されています。
申告分離課税の選択により、株式に関わる所得は、給与所得とは別に課税され、しかも上記の税率は配当等や譲渡益の金額の大きさによらず一定であるため、給与所得が一定額まで大きくなると、それ以上は頑張って働いて給与所得を増やす(その結果として所得税率が上昇、最高45%)よりも、資産として株式等を保有し、保有する株式等の価額の上昇を期待しながら配当等を受け取る方が所得税が少なく、つまり節税になります。
こうしたことから、一般に年間の総所得が1億円を超えるような人たち(富裕層)は、総所得の中で株式売却益などから発生する所得の割合が大きく、税負担率(所得税額/総所得額)が比較的低くなっています。総所得が1億円で税負担率がピークとなり、さらに総所得が増加しても税負担率はむしろ下がる傾向があり、このことは「1億円の壁」と呼ばれているそうです。
さて、確定申告の具体的な手続きですが、まず取引のある証券会社からそれぞれ「特定口座年間取引報告書」(以下「取引報告書」と言います。)を入手します。インターネットで利用できる証券会社の場合は、郵送交付とオンライン交付が選択できますので、早期入手が可能なオンライン交付を選択しておくと便利です。
取引報告書が入手できる時期についてですが、例えばSBI証券の場合、毎年1月中旬から順次交付されています。
e-Taxのシステムには、入手した取引報告書の記載内容を証券会社毎にそれぞれ指定欄に入力していきます。ちなみに取引報告書の記載項目は各証券会社で共通です。
最近では、電子交付された取引報告書のファイルを直接e-Taxのシステムに読み込むこともできるようになりましたが、私は昔ながらの手入力で対応しています。必要事項を入力すればあとは自動で処理が進みます。
ところで、米国株等の配当があり、外国所得税を徴収されている場合、取引報告書の記載内容をe-Taxのシステムへ入力する際に1点だけ誤りやすいところがありますので、注意が必要です。
取引報告書(表形式)には、「特定上場株式等の配当等」の「⑧国外株式又は国外投資信託等」の行に、「配当等の額(円)」、「源泉徴収税額(所得税)(円)」、「配当割額(住民税)(円)」や「外国所得税の額(円)」の数字が記載されています。
e-Taxのシステム入力画面の「⑧国外株式又は国外投資信託等」の「配当等の額(円)」の欄には、取引報告書に記載の「配当等の額(円)」の数字をそのまま入力するのではなく、「配当等の額(円)」から「外国所得税の額(円)」を差し引いた数字を入力する必要があるということです。
これは、e-Taxのシステム入力画面の「配当等の額(円)」が、外国所得税が徴収されている場合はその金額が差し引かれた後に国内で受け取った配当等の収入という意味で使われているためと考えられます。なお、誤って取引報告書に記載の「配当等の額(円)」の数字をそのまま入力してしまうと、外国所得税額がある場合は注意メッセージが表示されます。
そもそも電子交付された取引報告書のファイルを直接e-Taxのシステムに読み込むことにすれば、こうした心配は不要なのでしょうが(笑)。
次に外国税額控除を受けるための手続きです。外国税額控除は、その名のとおり所得控除ではなく「税額控除」ですので、所得控除のように所得金額から控除額を差し引くのではなく、課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から一定の金額が控除されることになります。
e-Taxのシステムには、証券会社毎に取引報告書の「配当等の額(円)」(ここでは外国所得税の額を差し引かない)と「外国所得税の額(円)」を入力します。そのほか、国名(米国)、所得の種類(配当等)、税種目(外国所得税)、源泉・申告の区分(源泉)、日付(該当年の1月1日又は12月31日のいずれか)をそれぞれ指定欄に入力していきます。
外国税額控除額は、国内所得税額に応じて上限が定められますので、国内所得税額に比較して外国税額がある程度大きくなると、徴収されている外国税額は全額が控除できないことがあります。逆に、その年の外国税額控除額に余裕が生じる場合もあります。こうした場合には、「外国税額の繰越控除」として控除限度超過額又は控除余裕額を翌年以降3年間繰り越すことができます。
外国所得税額の繰越控除をe-Taxのシステムへの入力する際には、前年の確定申告出力書類の中から「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を見ながら、「4.外国所得税額の繰越控除余裕額又は繰越控除限度超過額の計算の明細」に印字されている事項を入力することが必要ですので、前年の確定申告出力書類(又はファイル)を保管しておく必要があります。
「e-Taxによる確定申告」と題し、これまでの私の経験を踏まえて、サラリーマンの確定申告(還付申告)の仕組みについて解説してみました。この記事を書きながら2023年分の還付申告の準備作業を進め、1月18日にe-Taxのシステムから申告データの送信を完了しました。2023年分は高齢の父が手術を受けたり、一部米国個別株の損切りなどがありましたので、例年に比べ還付金額が多めになりました。
「e-Taxによる」と謳いつつ、e-Taxのシステムについてログインから申告データの送信までの一連の操作方法を説明したわけではありませんが、e-Taxのシステム操作画面等を使って操作方法を解説しているサイトやYouTube動画はたくさんあります(私もお世話になりました)ので、そちらを参照いただければと思います。
その際には、e-Taxのシステムは毎年改良されどんどん使いやすくなっていますので、なるべく新しい情報が掲載されているサイトやYouTube動画をご覧になることをお勧めします。